井上ご夫妻へのお礼状
二神です。高知新聞記事でご存知の方も多いと思いますが、12月21日、 1999年11月の東名高速飲酒運転トラック事故の被害者である井上ご夫妻から寄付をいただきました。
以下、お礼状を転載してご報告に替えます。
井上保孝さま 郁美さま
AKKこうち代表の二神です。ご寄付を深く御礼申し上げます。
メールでなくこうしてきちんとしたお礼状を書くにあたり、改めてくだんの事故のことを学び直しました。事故の概要を読み直し、ネットに上がっている井上様の手記も改めて拝読しました。資料を読みすすむうちに、心の底から怒りがこみあげてきました。と申しましても、ご存じとは思いますが私もアルコール依存症です。もう8年一滴も飲んでいなくて、職場でも社会的にもカミングアウトして活動していますが、治る病気ではないので、一生断酒が必要です。飲み盛っていた頃は、今日飲む酒のことしか頭になく、家族、職場をはじめ、周囲のことが全く目に入りませんでした。私は飲酒しながらの運転こそしませんでしたが、二日酔いで追突事故を起こしたことは何度もあり、その都度家内からこっぴどく怒られました。しかし、飲酒は止むことはなく、止める必要があるとも考えませんでした。病気とはチラとも考えませんでした。アルコール依存症は否認の病気だと言われる所以です。精神病院で専門治療を受けた患者の断酒成功率は2年断酒で甘くみて2割と言われています。幸い私は家内に引きずられるようにして(いや、実際ひきずられて)酒を止めることができましたし、その後も断酒会に通うことで断酒継続できています。私の所属する断酒会には毎年何人か入会者がありますが、1年続く人は年に1人いればいい方です。残りの人はいつの間にか例会に来なくなり、消えてゆきます。昨年のサマースクールで、井上様が「事故を起こした運転手はしばらく断酒会に通っていたが、その後来なくなり、今はどうしているか分からない」とおっしゃっていましたが、その人も結局断酒会に繋がれなかった一人だと思います。
井上様も書かれていますが、飲酒運転・事故の厳罰化には一定の効果はあります。私は家内と一緒に自費でASKの「飲酒運転防止インストラクター講座」に行ったことがありますが、私たちの他はほとんど大手のバス会社の運行担当者さんたちが仕事で来ていて、アルコールチェッカーに引っかからないように減酒(断酒でなく)をさせる方法に悩んでいました。なぜか運行担当者にはアルコールに弱い人が多く、「飲めない奴に俺たちの気持ちが分かるか」と開き直られて困っているという話も聞きました。
けれども、これも井上様が書かれているように、厳罰化だけではことは収まりません。アルコール依存症者は正常な感覚が麻痺していますから「この程度なら大丈夫。いつもやってるし」と考える人は必ずいます。「飲んで死ねれば本望」(事故の場合巻き添えになる相手のことは感えずに)とは依存症者皆が思っています(私も思っていました)。私は内科医ですので、お酒が生活習慣病の元になっているとおぼしい患者さんも何人も診ていますが、節酒は「やってみるわ」と答えても実際はやってくれませんし、断酒に至っては論外です。そんなことを勧める私を奇異の目で見ます。それっきり来なくなる人もいます。
AKKこうちは、元は自助グループ有志で発足したNPOです。それぞれの自助グループ会員としての立場は堅持しながら、自助グループではできない活動を目指しています。アルコール患者を迷惑としか考えない一般病院(特に救急)、身体的病気があると受け入れを渋る精神科病院、何事にも腰が重い行政、ともすると自分たちだけの断酒で満足しがちな自助グループの壁を超えて、現在は私以外の(本人は非依存症の)精神科スタッフも加わり、アルコール依存症の社会啓発と医療対策の高知版ネットワーク(一般科と精神科の連携、自助グループへの橋渡し)の構築を大きな目標に活動しています。県の自殺対策補助金を主な活動資金としてきました。とはいえ従来の講演会を開いてパンフレット作ってでは効果は知れていますから、なるべく既存の概念に収まらないものを、主に副代表の家内(島内)が発案し、先例にこだわる県を説得して実行しています。来年度からは自殺対策を経由しなくてもアルコール基本法でダイレクトに補助金が期待できます。しかし、行政はあまり突飛なものはお金を出してくれませんので、画期的だと思うけれど(あるいはそれ故に)補助金は出そうもない、そんな活動を行う時のために寄付金は議論しつつ大切に使わせていただきます。
アルコール問題に関しては基本法が成立して行政現場がやっと戸惑いながら動き出したところです。先は長そうですが、息切れしないよう活動を続けてゆきたいと思います。
井上様ご一家のご健勝と、ご活動の一層のご発展をAKKこうち会員一同心よりお祈り申し上げます。今回は本当にありがとうございました。
2015年12月21日 AKKこうち 会員一同